母が連れてきた紅く熟れたあの方。
母が声のでない私のために連れてきた。
物心ついたときから声が出なくなった私は喉に効くといわれる大好物な林檎を食べる。それは365日、毎朝毎昼毎晩林檎をかじる。シャリシャリシャリ。
毎朝毎昼毎晩、林檎を手渡してくれるのは表情の見れないあの方。
私はかじる度彼に恋していくの
林檎、林檎。恋の果実。
食べる度に胸が熱くなる。
食べる度、気持ちが伝わったらいいのにな…
今日も林檎。
だけど今日は違う。
目の前に座る彼はずいっと頭を寄せる。
首を横にふる。三日月が笑う。
―た べ て。
目の前が真っ暗になった。
夜、母から出された林檎はすられた林檎。
お母さん、あの方は?
お母さん、この林檎は?
お母さん、お母さん…
一口口にすれば広がる失恋の味。
うわーんうわーん。
思わず声をあげて泣いた。
真っ赤に熟れたあの方を食べて私は泣いた。
声を得た私を道行く誰もがちやほやする。
ある日の学校、先生が突然言いました。
「今、林檎売りなら町の入り口」
私は走りました。
根拠はありませんがなぜだか走りました。
ただ、町の入り口まで走りましたがもう遅かったようです。
「お嬢さん、お求めの品はこちらですよ」
思わず私は泣きながら声の持ち主に抱きついた。
2013年06月03日
2013年02月01日
終末がやってくる
2012年11月30日
「冬の月夜」を題材に
「先生、こんな真夜中なにしてるんですか」
「ちょうどよかった。アレをとってくれ」
「会話してください」
患者さんの見回りを終えた僕は主治医兼上司が動かない足を伸ばして虫かごをとろうとしているのを見つけた。器用な人だ。
「巡回していてよかったですよ。何してたんですか」
「今日は満月だろ。だからだ」
「なんですかそれ」
「お前も腕を研いておけよ。いいもんみれるから」
「冗談じゃない」
車椅子を押しながら<人>の皮膚でない腕を見つめる。完全に<ダイヤモンド>になったこの腕。
「先生、どこまで進行しました?」
「とりあえず。<中>の人の性処理玩具になるとこまで決まったな」
相変わらずの先生に返す言葉がない。出慣れないせいか風が冷たく感じる。僕は言われた通り満月が一番近く感じる丘にやってきた。それにしても寒い
「先生、早くしてください」
「もうちょいだ。慌てるな」
そういうなり人の腕を特殊な機材で研く。痛くはないがやめてください。文句を言おうと口を開けるといきなり僕の腕が光に反射して輝いた。
「っつ!ま、ぶし!!」
「ははは。美しいな」
「美しいじゃないですよ!なんですかこの光!」
「お前の症状だけが出せる輝きだ。わははは!愉快だねぇ」
「愉快じゃないですよ!いつ終わるんですか!!」
「月が雲に隠れるまで」
な、なんだよこの残酷な輝きは!でも見たことある輝き…
「先生、僕この輝き見たことあります」
妻にあげたプレゼントで、と告げると虫かごを覗いている先生が「そうか」とつげ帰り道、僕らの会話はなかった。
「昨日は満月でしたねー。月鈴虫見れました?」
「月鈴虫?なんですかそれ」
一緒に病室巡回するのは患者兼先輩のマーヤさん。相変わらず長いまつげをパチパチさせながら時々窓からのぞく木々を粗食している。…仕事をしましょう
「年に一度、はたまた100年に一度の月の音色を奏でる不思議な鈴虫ですわ。完全な冬が来る手前に現れるんですの」
なら昨日先生が虫かごを見ていたのはそれだろうか。
リーリン−リンリン−
「マーヤ!305の坊主が急変した!急げ」
リーリン−リンリン
「まあ。大変!僕先生。あとの診察お願いいたしますね!」
リーリン−リンリ
「あ、はい。終わったら僕も駆けつけます」
電気車椅子を急加速させて廊下を走る先生にマーヤさんは連れていかれた。と、言うよりアレで階段降りる気なのか?
305号室のカルテをみながらどこからか聴こえる虫の音を辿っていく。
「あ…雪、か」
薄暗い窓から白いものが降りてきた。この量は積もるな…
綺麗な満月に積もろうとする雪。どこかで人の泣く声がして虫の音はいつの間にか聞こえなくなっていた。
「ちょうどよかった。アレをとってくれ」
「会話してください」
患者さんの見回りを終えた僕は主治医兼上司が動かない足を伸ばして虫かごをとろうとしているのを見つけた。器用な人だ。
「巡回していてよかったですよ。何してたんですか」
「今日は満月だろ。だからだ」
「なんですかそれ」
「お前も腕を研いておけよ。いいもんみれるから」
「冗談じゃない」
車椅子を押しながら<人>の皮膚でない腕を見つめる。完全に<ダイヤモンド>になったこの腕。
「先生、どこまで進行しました?」
「とりあえず。<中>の人の性処理玩具になるとこまで決まったな」
相変わらずの先生に返す言葉がない。出慣れないせいか風が冷たく感じる。僕は言われた通り満月が一番近く感じる丘にやってきた。それにしても寒い
「先生、早くしてください」
「もうちょいだ。慌てるな」
そういうなり人の腕を特殊な機材で研く。痛くはないがやめてください。文句を言おうと口を開けるといきなり僕の腕が光に反射して輝いた。
「っつ!ま、ぶし!!」
「ははは。美しいな」
「美しいじゃないですよ!なんですかこの光!」
「お前の症状だけが出せる輝きだ。わははは!愉快だねぇ」
「愉快じゃないですよ!いつ終わるんですか!!」
「月が雲に隠れるまで」
な、なんだよこの残酷な輝きは!でも見たことある輝き…
「先生、僕この輝き見たことあります」
妻にあげたプレゼントで、と告げると虫かごを覗いている先生が「そうか」とつげ帰り道、僕らの会話はなかった。
「昨日は満月でしたねー。月鈴虫見れました?」
「月鈴虫?なんですかそれ」
一緒に病室巡回するのは患者兼先輩のマーヤさん。相変わらず長いまつげをパチパチさせながら時々窓からのぞく木々を粗食している。…仕事をしましょう
「年に一度、はたまた100年に一度の月の音色を奏でる不思議な鈴虫ですわ。完全な冬が来る手前に現れるんですの」
なら昨日先生が虫かごを見ていたのはそれだろうか。
リーリン−リンリン−
「マーヤ!305の坊主が急変した!急げ」
リーリン−リンリン
「まあ。大変!僕先生。あとの診察お願いいたしますね!」
リーリン−リンリ
「あ、はい。終わったら僕も駆けつけます」
電気車椅子を急加速させて廊下を走る先生にマーヤさんは連れていかれた。と、言うよりアレで階段降りる気なのか?
305号室のカルテをみながらどこからか聴こえる虫の音を辿っていく。
「あ…雪、か」
薄暗い窓から白いものが降りてきた。この量は積もるな…
綺麗な満月に積もろうとする雪。どこかで人の泣く声がして虫の音はいつの間にか聞こえなくなっていた。

